こんにちは。今回は、インターネット上の誹謗中傷に対する損害賠償(慰謝料)の規定を見直すため、法務省が民法の改正に向けた検討を始めるというニュースについてお話ししたいと思います。
(※ファクトチェック補足:2026年9月末、法務省はSNSなどのインターネット上の誹謗中傷による深刻な被害を受け、民法の「不法行為」の規定を大幅に見直すための研究会を設置すると発表しました。現在の名誉毀損などにおける慰謝料の認容額(中央値で30万円程度)が「安すぎる」との指摘を受け、算定基準の明確化や賠償請求額の引き上げ(増額)に向けた議論がスタートしました。)
賠償額の低さと「泣き寝入り」の現状
ここ数年、特に2020年のコロナ禍以降、インターネット上の誹謗中傷は大きな社会問題となり、「ネットでの行き過ぎた攻撃は絶対に良くない」という認識が世間一般に定着してきました。
被害者が声を上げやすくなり、プラットフォーム側への削除要請や発信者情報開示請求(裁判)のハードルも以前よりは下がりました。しかし、そこに立ちはだかっていたのが「賠償金(慰謝料)の低さ」という問題です。
いくら時間とお金(弁護士費用など)をかけて加害者を特定し、民事裁判で勝訴しても、現在の日本の司法実務では精神的苦痛に対する慰謝料の相場が低く、数十万円程度しか認められないケースがほとんどです。場合によっては「裁判費用の方が高くついて赤字になる」ため、被害者が泣き寝入りせざるを得ないのが実情でした。
さらに、いざ賠償命令が出ても、加害者が未成年であったり、経済的に困窮していて「払えない(払わない)」と開き直られてしまえば、それを取り立てるのは非常に困難です。今回の法務省の動きは、こうした現状の理不尽さを少しでも解消し、「ネットで人を傷つければ、重い代償を払うことになる」という抑止力を働かせるための非常に重要な一歩だと思います。
厳罰化と「社会の成熟度」の関係
飲酒運転の厳罰化が事故を減らしたように、法律のルールを変え、賠償額を引き上げること(ある種の厳罰化)は、抑止力として間違いなく効果があるでしょう。
しかし、僕は法律の厳罰化だけで全てが解決するとは思いません。ネットの誹謗中傷を根本から減らすためには、法律の整備と並行して「社会全体の成熟度(熟成度)」を高めていくことが不可欠です。
匿名で他人を激しく攻撃してしまう人たちの背景には、心の余裕のなさや、社会生活に対する強い不安、ストレスが潜んでいることが多いと感じます。「心が貧しいと経済的にも貧しくなる」という単純な話ではなく、日々の生活に追われ、将来への不安を抱えているからこそ、その捌け口としてネットで他人を叩いてしまうという負の連鎖があるのではないでしょうか。
心の余裕を生むための社会システム
少し脱線しますが、そうした「社会への不安」を取り除き、人々に心の余裕をもたらす究極の解決策の一つが「ベーシックインカム(最低限所得保障)」のような制度だと僕は考えています。実際にベーシックインカムの実証実験が行われた地域では、生活の不安が減ることで交通事故や犯罪が減少したというデータもあります。
人々が経済的・精神的な安心感(心の余裕)を持てる社会になれば、他人の足を引っ張ったり、匿名の安全な場所から石を投げたりするような誹謗中傷も、自然と減っていくはずです。
法律の整備と社会の成熟は、いわば車の両輪です。法務省の今回の見直しをきっかけに、「お互いを思いやれる社会」という使い古された言葉が、少しでも現実のものに近づいていくことを期待しています。